授業ではイギリスの詩人、シェイマス・ヒーニーの「ブロッホ(Broagh)」を読みます。
タイトルのブロッホとは北アイルランドの地名で、ヒーニーが暮らしていたところです。詩は、土地の名前が土地と一体となっており、自然と言葉を一体化していく様子が読み取れます。ブロッホのghという発音を意識した単語も頻繁に使われていて、詩全体がブロッホの雨の響きを伝えています。
一方、よそ者という言葉も出てきます。北アイルランドとイギリスの間にはカソリックとプロテスタントという宗派争いがあり、北アイルランド紛争をも引き起こしました。ヒーニーはアイルランド人なので、ではよそ者とはプロテスタントなのかというと、そうではありません。ヒーニーは「ghの発音ができないのはイングリッシュ」と言っています。つまりヒーニーはこの詩で、さまざまな背景を持つ人が一緒になってその土地を作り上げているのだというコミュニティ意識を伝えているのです。言葉、文化、歴史、個人といういろいろなレベルで詩と社会がせめぎあっている、「ブロッホ」はそういう詩であると言えるでしょう。

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佐藤 泰人准教授文学部 英米文学科

  • 専門:イギリス文学、アイルランド文学

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