近年、多くのメディアで取り上げられるようになった東洋大学理工学部の建築学科。地域とのつながりを重要視した実践的な学びは、地方自治体等からも支持を受け、次々と豊かな展開を遂げています。学生らしさを生かした視点や想像力、創造力、そしてプレゼンテーション力を、建築のプロフェッショナルたちが丁寧に評価する設計課題の最終講評会は、一般公開という形で、さらに大きな発信力を伴うものとなりました。

緊張感に包まれた中での最終発表

建築学科3年の「計画・設計演習Ⅱ」の授業では、設計課題に取り組むごとに優秀作品を選出し、講評するというスタイルを取っています。情熱を持って形にし、提出した自分のプランが、みんなの前で真摯に評価されるという繰り返しが、学生たちの学習意欲を大いにかき立ててきました。秋学期設計課題には、「生きる力を育てる中学校」というタイトルで、高機能かつ柔軟な教育空間づくりが掲げられ、学生たちはそれぞれのコンセプトを打ち出し、9月から調査や設計・模型製作の取り組みを開始。その最終講評会が、2013年12月18日(水)、川越キャンパスにある建築学科製図室(2号館3階)にて行われました。

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会場には、学生がそれぞれ力を尽くした設計図と模型が40作以上も展示されています。まずは一般公開として自由に見学できる時間が設けられ、今回の題材となった川越市立名細中学校の生徒と先生も訪れました。コンセプトと設計図を個性豊かに表現したプレゼンボードや、緻密な模型作品に注目が集まります。見学者は気に入った作品にコメントを記すことができ、「かっこいい」「とても細かく作られていてすごい」など、中学生の素直な気持ちも数多く記されました。

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その後、プロの建築家や建築雑誌の編集者ら、関係者が集う中で、選別された10作品の講評会が始まりました。製作者である学生が、設計の狙いや特徴を説明します。設計図や模型についてはもちろん、このプレゼンテーションの技量も評価の対象です。自分の作品に込めた思いを説明する学生たちの発表を受けて、授業を担当された4名の教員とゲスト審査員が実にきめ細かく評価していきます。学生の緊張した面持ちと、プロの建築家たちの丁寧なまなざしが、好対照に感じられるひとときでした。

評価されることでさらに向上する

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選抜10作品以外にも多くの設計・模型が評価され、講評会は実に4時間以上にも及びました。実在する中学校の新しい姿を提案することも、こうしてプロに批評されることも、学生たちにとってはとても貴重なもの。「こんな贅沢な学びはない」と熱く語るゲスト建築家もいたほどです。講評後には、別室で厳正な審査が行われ、入賞作品が発表されました。

金賞に輝いたのは、中学校と市民の森をつなぐ「架け橋」というコンセプトで提案した住環境研究室(篠崎正彦准教授)の安田陽さん(茨城県立伊奈高等学校出身)の作品でした。人の流れを森に向かって拡散させていくとともに、各教科の教室をリズム良く渡り歩けるような設計です。

「実際に現場に足を運ぶと、フェンスで囲われた森と校舎にすごく隔たりを感じたので、学校と森とを一体化することで、新たな学校風景をつくれるのではないかと考えました」という狙い通り、「ほかの作品に比べて、森がとても大事に扱われているのがわかる」と評価されました。各教室のリズミカルな配置にも、「卒業してもまた帰ってきたいと思える学校を描きたかった」という安田さんの思いがうかがえます。

「建築は答えがないところが面白いのですが、設計の意図をわかってもらうための熱意あるアピールが、もっともっと必要だと感じました。金賞には驚きました。でも、まだ自分たちが経験していない、『クライアントを持ったときの喜び』は、きっと今日の受賞より大きいはず」と、決して現状に留まらず、前進する意欲に満ちています。

多くの中学生が楽しそうに模型に見入っていた建築・都市空間デザイン研究室(日色真帆教授)の待井翔伍さん(静岡北高等学校出身)の作品は、銀賞に選ばれました。自分自身にしかできないオリジナリティのある空間をつくりたい、と語る待井さんの設計コンセプトは「浮遊する学校」です。「階層を浮遊させることで、従来の教室空間の概念から解放したいと思いました。空中回路で立体的なアクティビティを表現しました」と発表しました。空間をつなぐ廊下にもっと工夫がなかったかとの意見が出る一方、模型から感じられる面白さは中学生の反応と同じく、プロをも魅了し、高く評価されました。「毎週提出物があったこの授業は大変でしたが、本当にやりたいことというのは、『好き』と『つらい』が両方あるんじゃないかと感じました」と、大きな達成感を得たようです。

文部科学賞と堀場弘賞のダブル受賞となったのは、住環境研究室(篠崎正彦准教授)の櫻井花子さん(東京工業大学附属科学技術高等学校出身)の作品でした。用途別に空間を分けた複数の棟を建て、教科や学校内での過ごし方によって棟を移動し、中高生プラザ・森・地域とのつながりを感じ取る設計です。「非常に風通しの良い、さわやかな印象」と評価され、2つの賞を射止めました。発表の際の質疑応答で、「今のように口頭で説明しなくても伝わるような表現の仕方がもっと必要だ」という的確な指摘を受けた櫻井さんは、「今日いただいたアドバイスを踏まえて、今後の勉強につなげていきたい」と、きっぱり言い切ります。

良い点も課題点も明確になったこの学びを糧に、学生たちは次のステップへと踏み出します。

自己表現力は就職活動にも必ず生きる

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「授業でも毎回講評会を行っていますが、この最終講評会は学外にも声をかけて一般公開しましたので、学生たちも一層張り切ったと思います」と述べたのは、指導を重ねてきた工藤和美教授です。「大学としてもこうした学びを発信していくべきだと、今回は授業内容を最初から随時Facebook(https://www.facebook.com/toyo.sdl)で公開してきました。題材をキャンパス近隣の中学校に設定したのは、学生たちも常に現場を見に行けますし、中学生も設計を見に来てくれる、お互いの交流も大事だと考えたからです」と、その目的を説明します。そして、「講評を『なるほど』と受け止めた学生は、それを次回に反映するでしょうし、他の学生も仲間の案からは大きな刺激を受けるもの。また3年生以外の学年も多く見に来たように、こうした機会は、学内的にも貴重なエデュケーションになるのです」と効果を述べました。

学生たちはこの集大成をポートフォリオにまとめて、就職活動に役立てることでしょう。最後の最後まで、自己表現は続きます。

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「計画・設計演習II 講評会」最終演習課題入賞者

<入賞>
金賞     安田陽「架け橋」 (茨城県立伊奈高等学校出身)
銀賞     待井翔伍「浮遊する学校」 (静岡県・静岡北高等学校出身)

堀場弘賞   櫻井花子 (東京都・東京工業大学附属科学技術高等学校出身)
柳川奈奈賞  大場拓郎 (山形県立寒河江高等学校出身)
中村勉賞   上ノ内智貴 (東京都立豊島高等学校出身)
平野耕治賞  進藤真武 (秋田県・明桜高等学校出身)
長澤悟賞   高木奨平(長野県上田千曲高等学校出身)、福島大喜(東京都立翔陽高等学校出身)
日色真帆賞  中村裕 (東京都・東京純心女子高等学校出身)

名細賞*    松本千瑛 (東京都・拓殖大学第一高等学校出身)
文部科学賞**  櫻井花子 (東京都・東京工業大学附属科学技術高等学校出身)
マスコミ賞*** 神戸晃輝 (埼玉県立川口北高等学校出身)

*  講評会に参加した名細中学校の生徒からの最多得票
**  文教施設研究センター研究員の個人賞
*** 学校建築関係雑誌編集者の個人賞

<担当教員>
長澤悟、工藤和美、相坂研介、手塚由比

  • 掲載内容は、取材当時のものです