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ドナルド・キーン博士名誉博士称号授与記念講演会および文学部伝統文化講座を開催

2011年11月26日(土)、白山キャンパス井上円了ホールにて、本学学術顧問を務めるドナルド・キーン博士の東洋大学名誉博士称号授与式および記念講演会を行った。また、あわせて文学部主催の伝統文化講座を開催した。

このたび本学は、ドナルド・キーン博士に「東洋大学名誉博士」号の授与を行った。この称号授与は、日本文学文化研究の第一人者として国際的に活躍されてきた偉大な業績、およびとくに本学においては2008年より学術顧問として学生に日本文学文化を学ぶ貴重な機会を提供していただき、教育研究の進展に大きな貢献をいただいた功績を顕彰するもの。

式に先立ち、竹村牧男学長がドナルド・キーン博士の経歴を紹介。日本文学研究の道を志した経緯とこれまでの成果、日本文学文化への深い造詣を伝えるエピソードなどを交えつつ、「伝統的な作品から現代の作品に至るまで、日本の文学作品や文化を世界に向けて広く、深く、正確に伝えていただいたその功績を私たち日本人は深く受け止め、忘れてはならない」と語った。また、3・11の大震災後、大好きな日本とともにありたいと日本への永住を決意されたことにも触れ、キーン博士の日本への深い思いと日本人に与えた勇気について心からの感謝の意を表した。

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【記念講演「王朝の美意識」】
授与式後、キーン博士は授与記念として「王朝の美意識」のタイトルで講演を行った。
「日本の文化を語る場合、どうしても“美意識”に触れなければならない」。キーン博士はこう切り出した。
それぞれの民族にはそれぞれ、美に対する要求がある。原始人でさえ、独自の絵を描き、中国には5,000年も前から洗練された陶器が作られ、中世ヨーロッパの貴族の住まいである城では、壁の冷たさを美しいタペストリーで温めた。そして古代より礼拝堂・彫刻の美が各国・各地域に残る。ただし、多くの「美」は金銀や鉱石をあしらうなどして華やかなものや永遠に残るものを目指した、という。それらはきわめて“男性的な文化”であり、たとえば11世紀に女性の手によって書かれた『源氏物語』のような、はかなさを美とする文学はヨーロッパには存在しない、と語った。

キーン博士は「文学が文化を作ったのなら、女性が文化を作ったともいえる」とし、特に『源氏物語』の主人公である光源氏は、政治家として軍人として功績をあげたわけでなく、「美しい人」であることに焦点が当てられていると指摘した。ここから『源氏物語』に描かれる美意識の中に、日本人が持つ普遍的な美意識をあぶり出した。

『源氏物語』には光源氏と女性たちとのさまざまな恋模様が描かれるが、ここにも日本独特の美が見られる、という。宮中の女性たちの表情や姿は、実際に「見る」ことができなかったにも関わらず、光源氏はその相手に惹かれてゆく。それは姿形ではなく、隙間から見えた着物の裾の色味や、交わす「手紙」がそうさせるのだった。
「いわゆる≪ラブレター≫だが、西洋文学に見るそれとはまるで異なる。いかに直接的・情熱的に思いを伝えるかということではなく、美しい短歌で気持ちを伝えることが重要。手紙に用いた“紙”の質、文字の濃淡、紙の折り方、手紙に挟んだ季節の花、そうしたことをも重要視している」(キーン博士)。

実際、源氏物語に見る相聞歌について、相手にいわんとすることを丁寧に現代語訳すると、実は31音の約5倍くらいの分量になる、という。「はっきりと表現せず、他のうたに触れるなどして婉曲に表現することが奨励された向きもある」とのこと。西洋では創造力の欠如として「類似」を避ける傾向があるが、日本ではむしろ「本歌取り」等の技法で、これまで美しいとされてきたものを尊重し、それを活かしてよりその深さを味わうことが大切にされる文化であることも説明した。このことから「すべてを言いきることよりも、一部を利用するなどして余韻を大事にする。これも日本独特の美意識である」とした。

源氏物語は「もののあはれ」の文学、枕草子が「をかし」の文学だと言われることについて、人と人との細かな関係、ささやかな自然の美しさを感じられることが「もののあはれ」の一部分であること、そして知的興味と美しさとユーモアに満ちたものが「をかし」であるとし、「日本の古典に登場する人物を見るとき、我々と同じ生身の「人間」であることが分かる。憎しみ、欲望、愛情…それらすべての感情は現代の私たちとは何ら変わりがない。そこにある、あはれ/をかしをあわせたものが日本文学の美しさであり、日本人の美意識である」とした。
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【伝統文化講座「舞は駿河舞 弾くものは琵琶」】
キーン博士の講演後は第2部「伝統文化講座」に移った。
毎年、文学部がこの時期に開催している伝統文化講座は「古典を豊かに読むために」を目的とし、古典の中に現れる音楽について生の演奏を味わう。解説は、古典文学研究者の石田百合子氏。
「春はあけぼの」で知られるように『枕草子』ではいわば“お気に入りのリストアップ”を連ねる清少納言。今回の講座名「舞は駿河舞 弾くものは琵琶」は、まさしく『枕草子』に綴られた、清少納言お気に入りの舞であり、お気に入りの楽器からくるタイトルだ。

講座では、石田氏が貴族の生活の中での音楽のあり方について解説。キーン博士の講演内に登場した話題も交え、『源氏物語』や『枕草子』の中で描写された音楽にまつわる記述について、奏者にそのシーンを再現してもらうなどしながら、生活に音楽が溶け込んでいたという当時の貴族社会の情景を思い起こさせた。また、古典の中に登場する楽器(笙・和琴・琵琶・簟篥・筝・笛)を一つひとつ紹介しながら、楽器各々の音色および合奏を会場に味わってもらった。最後に、清少納言が好んだ「駿河舞」が、東遊び(あずまあそび)と呼ばれる神前の歌舞の中の一曲であることから、実際に東遊びの一部を舞台にて再現した。

〔写真上〕約750名が聴講。キーン博士の講演、雅楽演奏と続く、内容たっぷりの講座となった。
〔写真中〕『源氏物語』について語るキーン博士。日本への関心を開いたのは18歳の頃に古本屋で出合った『源氏物語』の英訳本だという。
〔写真下〕清少納言が仕えた中宮定子は琵琶を弾いたとされる。『枕草子』には琵琶を抱える中宮の姿を清少納言がうっとりながめる一節がある。

※当日の講演映像が下記からご覧になれます。

ドナルド・キーン博士名誉博士称号授与式

ドナルド・キーン博士記念講演〔前編〕

ドナルド・キーン博士記念講演〔後編〕

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