東洋大学とオリンピック History of Toyo University with the Olympic and Paralympic Games

法学部法律学科 教授 谷釜尋徳

2016年夏、リオデジャネイロでオリンピック・パラリンピックが開催されました。オリンピックには、過去最大規模の東洋大学関係者(8名)が選手として出場し、地球の裏側で持てる力を存分に発揮しました。しかし、オリンピックにおける東洋大学勢の大躍進は、一朝一夕に成し遂げられたものではありません。ここに至るまでの、長きにわたる先人たちの激闘の記録があったのです。
2017年に東洋大学は創立 130周年をむかえました。この小論では、東洋大学のスポーツ130年史を「オリンピック」という切り口から振り返ってみましょう。東洋大学とオリンピックが織りなす物語のはじまりです。

1.井上円了時代の東洋大学とスポーツ

いまを遡ること約130年前、1887年に東洋大学の前身である私立哲学館が井上円了博士によって設立されました。第1回の近代オリンピックがアテネで開催されたのが1896年ですから、オリンピックよりも東洋大学の方が年上です。

哲学館が開かれた当初、講師陣の中に黎明期の日本のスポーツ界を牽引したとある人物が名を連ねていました。柔道の創始者で、アジア初のIOC委員として日本のオリンピック参加に尽力した嘉納治五郎その人です。『哲学館講義録』には嘉納による「倫理學(批評)」の文章が収められています。若き日の嘉納が哲学館生のスポーツ活動に関わった形跡は今のところ確認できませんが、東洋大学ははじめからオリンピックと遠縁を結んでいたと言えそうです。

『東洋大学百年史年表』(「東洋大学史紀要」2号)より哲学館時代のスポーツ関連の事項を拾い上げてみると、古くは1902年1月18日に、柔道場の開場式が挙行されています。また、翌1903年10月16日には、井上円了館主が欧米の視察旅行から帰国した歓迎行事として、王子の飛鳥山公園で「陸上運動競技会」が開催されたそうです。少し時代は下りますが、1919年には和田山哲学堂を会場に「剣道仕合大会」が行われたという記録もあります。年表に書き残されるのは史実のほんの一部であると仮定すれば、井上円了時代の私立哲学館や東洋大学の学生は、盛んにスポーツに興じていた可能性があります。

ここで、井上円了の著作の中から、スポーツや運動に関する記述を抽出してみましょう。1891年の「哲学の効用」(『天則』所収)には、「そもそも人は肉体と精神との二部より成るものにして、その肉体練磨の術としては運動あり体操ありて、以てその健康を保持するに足る。而して此外になほ精神練磨の法ありて之が強健を致すのすべなかるべからず。」という一文があります。スポーツ(運動や体操)は「健康を保持する」という点で効果が認められているものの、重要視されているようには読み取れません。

また、1917年の『奮闘哲学』では、「近来は西洋の娯楽が我国に入り来り、野球の如き大いに身体の運動を進むるものあれども、余り運動に過ぐるのもまた宜しくない。(中略)余り身体の活動に過ぎて、疲労を重ね、苦痛を感ずるようになっては娯楽の本旨にも戻ることになる。」とあります。ここでは、野球を事例に西洋由来のスポーツの存在に触れていますが、スポーツのやり過ぎによるマイナス面の方を懸念しているようです。

だからといって、井上円了がスポーツ嫌いだったというわけではありません。明治・大正期のスポーツは、まだ今日のように人々の生活に浸透していたわけではなく、世間ではその意義を疑問視する声も少なくなかったからです。むしろ、著作の中でスポーツを取り上げていることは、円了がスポーツという新たな時代の風を敏感に察知していた裏付けだと理解することもできます。

年代別TOPICS

1887私立哲学館創立

1.井上円了時代の東洋大学とスポーツmore

1906私立東洋大学と改称

2.運動部の設立と躍進more

1935ベルリンオリンピック

3.“幻のオリンピアン” 池中康雄more

1964東京オリンピック

4.1964年 東京オリンピックと東洋大学more

1968グルノーブルオリンピック

5.“初物づくし”のスピードスターあらわるmore

1972ミュンヘンオリンピック

6.入賞者・メダリスト登場の時代へmore

1976モントリオールオリンピック

7.華麗なるジャンパー モントリオールの空を舞うmore

1984ロサンゼルスオリンピック

8.燃える薩摩隼人 初の金メダリストへmore

1992バルセロナオリンピック

9.日本競歩界のパイオニア 未来を切り拓くmore

1996アトランタオリンピック

10.“アマチュア野球軍団” 最後の挑戦more

2012ロンドンオリンピック

11.ハードパンチャー世界を制すmore

2016リオデジャネイロオリンピック

12.新時代の到来more

13.TOYO SPORTS VISIONの誕生more

2020東京オリンピック