Research 私立大学研究ブランディング事業

文部科学省「平成29年度私立大学研究ブランディング事業」採択

多階層的研究によるアスリートサポートから高齢者ヘルスサポート技術への展開

概要

東洋大学は様々なスポーツ分野で活躍するトップアスリートの育成を積極的に行ってきた。本事業においては、多階層的に生体のストレス反応、メンタル不調を可視化し、IoTによるアスリートサポート技術、さらには高齢者の健康サポート技術を確立する。超高齢化社会を支えるイノベーティブかつグローバルな事業へと発展させ、文系のみならず理系も含めた高度な研究・教育が行われている国際的総合大学としての基盤を確立する。

東洋大学ビジョン

私立大学研究ブランディング事業とは

私立大学研究ブランディング事業とは、学長のリーダーシップの下、大学の特色ある研究を基軸として、全学的な独自色を大きく打ち出す取組を行う私立大学・私立短期大学に対し、経常費・設備費・施設費を一体として文部科学省が重点的に支援するものです。平成29(2017)年度の同事業には、188校から申請があり、計60校(タイプA:33件、タイプB:27件)が選定されました。

本学が採択を受けた「タイプB:世界展開型」とは、先端的・学際的な研究拠点の整備により、全国的あるいは国際的な経済・社会の発展、科学技術の進展に寄与する研究として、学際・融合領域・領域間連携研究等による新たな研究領域の開拓、生産技術の確立や技術的課題への大きな寄与、国際連携等のグローバルな視点での横断的取組、社会的ニーズに対応した知の活用等を目的とするものです。

ブランディング戦略

1. 東洋大学の将来ビジョン

東洋大学では、「諸学の基礎は哲学にあり」という建学の精神を教育の基本とし、異なる学問分野同士の融合、連携を図ることにより、地球社会の未来を拓き、知的イノベーション拠点の確立を骨子とする将来ビジョン「東洋大学ビジョン Beyond 2020」を策定し公表している。

これは、「グローバリゼーション」「イノベーション」「創造力」「人間価値」という4つのキー・コンセプトによる大学改革を目指したものであり、「創造力」の項目では「研究者×イノベーターで、産学連携を創造する」ことを約束している。

また下図の東洋大学ビジョンBeyond 2020の構成図で示されているように、「Innovation」「Education」「Research」「Globalization」「Management」の5つに分け、それぞれの詳細な行動計画を策定している。本事業は、その中の「健康先進国として世界をリードするプロジェクトの推進」「国内外の先端企業とのネットワークの形成」「研究の国際価値の向上」「チーム東洋の総合力の発揮」を体現している。

東洋大学の将来ビジョン

この将来ビジョンは、主要新聞の掲出、パンフレットの作成、ホームページへの掲載により、外部にも広く公表している。

更に、2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会の開催をきっかけに、五輪閉幕後も長きにわたって継続する東洋大学とスポーツの有機的な関係性を構築すべく「TOYO SPORTS VISION」を策定し公表している。

この将来ビジョンの4つの柱のうちの1つを「スポーツに関する「学術的アプローチ」の展開」としており、具体的には、「総合大学の強みを活かし、スポーツに関する多角的な学術研究を強く推進し、その学術的アプローチによって生み出された知的資源を、東洋大生のスポーツへの理解促進や、健康増進、競技力向上などのために、さらには社会一般に向けて積極的に還元」することを宣言している。  

本事業に関連する取り組みとしては 

  1. スポーツ庁の「女性アスリート育成・支援プロジェクト」に採択された食環境科学部を中心とした研究プロジェクトなど、数多くのスポーツに関する多角的な学術研究が進んでいる。 
  2. 学長主導のもと「東洋大学 オリンピック・パラリンピック特別プロジェクト研究助成制度」を創設した。これは、新たなイノベーションの創出に繋がり、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催後も持続性を持って、継続的に研究成果を社会に還元できる、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたるオリンピック・パラリンピック関連の研究に対して助成する制度である。 
2. 本事業を通じて浸透させたい東洋大学のイメージ

リオ五輪においては、東洋大学の学生オリンピアンが水泳、陸上などの競技で活躍した。その活躍もあって、東洋大学はスポーツで成果をあげている大学というイメージは浸透している。しかし、彼らの活躍が前述したような学術研究によって得られた科学的知見に裏づけされた指導による面もあるということは大学外に浸透していない。

また、「TOYO SPORTS VISION」に「総合大学の強みを活かし」とあるものの、130年の歴史の中で、創立から70年以上、文系のみの大学であったためか、社会には文系の大学であるというイメージが流布し、文系のみならず理系の分野でも高度な研究が活発に行われているという実際のイメージが浸透していない。

株式会社リクルートホールディングスが、昨年、高校生を対象にした進学ブランド力調査において、東洋大学は関東エリアの知名度は12位となっている。ただし、文理別に見ると、文系12位 75.5%、理系20位 69.7%で、文系と理系の学部で知名度に差があり、理系の学部が東洋大学にあることを知る高校生は7割を切っている。

https://souken.shingakunet.com/publication/collegemanagement/200-sep-oct2016-3e8e.html

さらに、株式会社リクルートホールディングスの調査の「クラブ・サークル活動が盛んである」という項目で、東洋大学は8位となっている。また、SNSの調査においても、運動部関連の発信は非常にエンゲージメントが高いものになっている。これらの調査結果は、東洋大学の日本を代表する運動部学生の活躍だと考えられるが、スポーツで活躍する人材を輩出している大学というイメージを利用し、そこには科学的な研究の知見の裏づけもあること、また、文系のみならず理系も含めた高度な研究・教育が行われている総合大学であることのイメージの浸透を本事業の実施により図る。

本事業のステークホルダーは、受験生、在学生及び保護者、卒業生、企業と広く国民全体を設定する。また、海外の研究者も本事業の対象として設定する。国民全体の抱く東洋大学のイメージも、前述した高校生のものに近いと思われる。国民全体に、文系のみならず理系も含めた高度な研究・教育が行われている総合大学であることを浸透するためのブランディング戦略を実施していく。

平成26年に、東洋大学は文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援」のタイプB(グローバル化牽引型)に「TOYO GLOBAL DIAMONDS グローバルリーダーの集うアジアのハブ大学を目指して」の構想で採択された。この構想の実施により、教育分野での学内の国際化の進捗は著しいものがある。研究の分野でも「東洋大学ビジョン Beyond2020」の行動目標に挙げている「総合的なグローバル研究を行い、高い研究力を擁する知的ピラミッドを形成する」ことの実現を、本事業の国際的な研究により牽引する。

そのことで、「スーパーグローバル大学創成支援」事業の実施により生まれつつある国際的な大学であるというイメージをより強固なものにしていく。

3. 本事業の情報発信の内容と手段

ブランドは単なる知名度とは異なり、ステークホルダーに東洋大学の価値の高さを認めてもらわないと発生しない。ステークホルダーそれぞれの立場によって、何に価値を高く認めるかは異なるため、情報発信の内容・手段は自ずと異なることとなる。

私立大学研究ブランディング事業は、単に研究の成果のみが求められているのではなく、ブランディングによる大学のイメージを浸透させることまでが求められている。その観点から、伝えたい情報を、様々なステークホルダーに届けるために、ステークホルダー別の情報発信手段として以下を想定している。

  1. 受験生:
    受験生向けホームページやSNSを利用し、本事業の先端的な研究内容や学生の関わり方を発信する。入学したときに、先端的かつ国際的な研究に関われる可能性があることをイメージしやすい内容にする。その際には、本学の受験生向けのサイトの特徴であるウェブ動画を大いに活用する。また、オープンキャンパスの模擬授業においても、本事業を素材としたものを実施し、研究施設を公開する。
  2. 在学生及び保護者、卒業生(校友):
    ホームページ、SNS、大学報、父母会報、校友会報、ホームカミングデーを利用し、本事業の先端的な研究内容や学生の関わり方を発信する。直接的なステークホルダーであるだけに、「東洋大学に入学してよかった」「東洋大学を卒業してよかった」と認識してもらえるようなコンテンツの作成を意識する。
  3. 企業:
    ホームページ、SNS、研究シーズ集、企業向けの産学連携マッチング・イベントを利用し、本事業において生み出された研究シーズ、社会実装化可能性のある研究について発信する。産学連携マッチング・イベントについては、産官学連携推進センターが主催する。それ以外の国民全体に対しても、ホームページ、SNSによる発信は行うが、マス・メディアへのニュース・リリースによるニュース化の効果も大きいと考えられる。また、必要に応じて、主要な新聞への広告出稿も検討する。
  4. 海外の研究者:
    国際的なジャーナルへの論文掲載、海外の主要学会での発表、海外研究者の招聘等を通じて発信する。また、それにより、本学を認識してくれた海外の研究者がホームページを検索することに備えて、英語ページを更に充実させる。
4. 事業の進捗・達成状況を把握する方法

本事業の成果指標及び達成目標については、以下のKPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)を用いて、目標の達成に向かい、プロセスが適切に実行されているかどうかを評価する。

本事業での主なKPI

  • SNS等のネットワーク上での言及数
  • ニュースサイトでのニュース掲載数
  • TV・新聞・雑誌等のマスメディアでのニュース掲載数
  • ニュース掲載の広告換算金額
  • 本事業関連学部・研究科への志願者数
  • 関連学部・研究科の卒業生・修了生の就職率
  • 共同研究・受託研究・奨学寄附金の受入数と受入金額
  • 特許出願件数
  • 特許実施数・実施料
  • 本学主催産学連携研究事業イベントの開催数および参加者数
  • 外部の産学連携イベントへの出展数・来客数
  • 論文発表数
  • 海外ジャーナルへの論文発表数
  • 学会発表数
  • 海外学会での発表数
  • 論文の被引用数
  • 発表論文のインパクトファクターの平均
  • 世界大学ランキングの各項目の評点
  • 世界大学ランキング日本版の各項目の評点
  • 大学イメージ調査・ランキングを発表している各雑誌の各項目の評点
  • 本学の実施する東洋大学のイメージ調査の評点

これらのKPIの数値を表で管理し、内部評価・外部評価を受ける。また、私立大学研究ブランディング推進委員会において、事業の進捗や効果を測定する、PDCAサイクルのCのチェックの部分において活用する。

    事業実施体制

    1. 全学的な実施体制

    「本学が卓越した研究力を有する大学としての地位を確立し、国際的にも高い水準の研究拠点を有する大学として認知されることを目的」とする学術研究推進委員会において、東洋大学のブランドとなり得る研究を選定した。

    そのうえで、本事業の実施体制は、全学的な研究体制を整備し、研究支援資源を集中的に投入する体制を構築するために、学長を事業統括者として、私立大学研究ブランディング事業推進委員会を組織している。研究担当副学長が副統括者として、学長を補佐し、国際担当副学長、産官学連携推進センター長、研究推進部長、学長室長、広報担当部長、産官学連携マネージャー、本事業の研究遂行の中心となる生体医工学研究センター長と理工学部長を推進委員としている。

    ブランディング事業実施体制

    2. 支援体制

    本事業は本学事務局複数部署の支援の基に実施される。

    事業推進にあたっては主に研究推進部が支援を行う。さらに以下の部署と連携し事業推進を全学的に図る。

    • 学内の教学の企画部門である学長室
    • 国際化の業務を行う国際部
    • 事業概要や研究成果に関する広報活動を行う総務部広報課

    研究の実施にあたっては、以下の委員会と連携し、内部統制に役割を果たす。

    • 学術研究推進委員会
    • 公的研究費不正防止計画推進委員会
    • 研究倫理委員会
    • 人を対象とする医学系研究に関する倫理審査委員会
    • 動物実験委員会
    • 遺伝子組換え実験等安全委員会

    研究成果の社会実装化や産官学への橋渡しについては、産官学連携推進センターが支援する。

    • 研究成果の特許申請を知的財産マネージャー
    • 研究シーズを基にした共同研究・受託研究の推進と技術移転を推進産官学連携マネージャー
    • 技術移転機関(TLO)としてキャンパス・クリエイト(株)やタマティーエルオー株式会社(TAMA-TLO)等
    3. 評価体制

    評価委員会を組織し、事業の進捗および成果に関して、学術、産官学連携、国際化等の観点から外部の評価委員、内部の評価委員による評価を年度毎に行う。

    評価に際しては、成果指標及び達成目標について、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)の客観的な数値を用いて、目標の達成に向かい、プロセスが適切に実行されているかどうかを計測する。

    各評価委員会の評価を基に、私立大学研究ブランディング事業推進委員会において、学長が事業の方向性や改善点等を指摘し、委員会の協議により、年度計画に反映させることで、PDCAサイクルを構築する。また、年度毎に事業の進捗と研究成果の報告を理事会に対して行い、理事から意見を聴取し、事業遂行の参考にする。

    4. 研究実施体制

    学内研究実施体制

    本研究事業は、東洋大学の複数の研究科に所属する教員を中心にして、国内および海外の関連研究機関および企業と連携し進めていく。生体医工学研究センター(センター長:加藤和則 理工学研究科教授)が、学内の研究プロジェクトの統括を行い、国内外の共同研究機関および産学連携企業との連携を行う。

    東洋大学生体医工学研究センターは、平成22年に私立大学戦略的研究基盤形成支援事業の採択を機に発足した研究センターであり、生命科学・理工学・健康科学および栄養学を専門とする研究員(学内教員、学外共同研究員等)で組織されている>

    各研究テーマの研究体制は以下の通りである。

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    学外連携研究実施体制

    本研究を実施するために、国内外の研究機関との連携を構築する。また国際的人材育成の観点から、アジア諸国からの留学生(研究員)の受け入れまたは派遣に関しては、「スーパーグローバル大学創成支援事業」と連携して、積極的に推進する。

    国内外の連携研究機関に関しては、締結後にHP上で順次開示予定である。

    産官学連携研究開発実施体制:

    産業界との連携は本学の研究推進部産官学連携推進課が所管する産官学連携推進センターが窓口となり研究成果の実用化を行う。既に複数の国内企業と、アスリートおよび高齢者のストレスマネージメントとヘルスサポートに関する共同研究契約および秘密保持による情報開示契約を締結している。公表できる連携研究に関しては、本HP上で順次開示する予定である。今後も、大学での研究成果を社会実装化できる体制をさらに強化し、産学連携に基づいたPDCAサイクルを構築する。

    事業目的

    東洋大学は様々なスポーツ分野で活躍するトップアスリートの育成を積極的に行ってきたが、そこには科学的な研究の知見の裏づけがあること、また、文系のみならず理系も含めた高度な研究・教育が行われている総合大学であることのイメージを浸透させることを本事業の実施により図りたい。

    そして本事業の成果を、

    1. アスリートサポート技術としてフィードバックするだけではなく、
    2. 地球規模の温暖化で増加している熱中症に対する予防医学的な見地に立ったヘルスサポート技術として確立し、
    3. 高齢者を始めとした国民の健康の維持・増進を図り、幅広く社会に還元することを目的とする。

     

    科学的根拠に基づいたアスリートサポート技術の多階層的研究
    アスリートが国際舞台で日々の練習成果を100%発揮して、結果を残すには、メンタル面、フィジカル面、双方のサポートが必要で、特に競技を含めた日常生活における様々なストレスにどう対処するかは大きな課題である。本学では平成22年度から、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「脳科学を基盤としたストレスの可視化とヘルスサポートシステムの開発研究」において、ストレスの可視化機器の開発や、ストレス生体応答の測定方法の開発研究を実施し、その成果を産学連携で実用化してきた。本研究ブランディング事業では、この研究基盤をアスリートサポート技術として更に発展させて、生体のストレス反応、特にアスリートのメンタルヘルス不調を可視化し、ストレスコーピング法(ストレス対処法)を確立することを目的とする。
    暑熱ストレスの可視化研究と熱中症サポート法の開発

    アスリートサポートに加えて、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会は、酷暑の中での開催となるため、国内外の競技関係者および観戦者を熱中症から守る対策も必須である。熱中症は生体に過度な暑熱ストレスが負荷されることが原因とされ、ヒートアイランド現象や地球規模の温暖化の影響により日本全土およびアジア諸国でも深刻な社会問題となっている。現在、内閣官房・環境省が主体となり、酷暑からアスリートおよび観戦者の健康を守るために、都心の緑化計画や飲料水・冷却グッズ提供、緊急医療体制の整備といった対処療法的施策を講じているが、根本的な問題解決には至っていない。本事業では、この緊急性を有する熱中症問題に対して、遺伝子レベルから個体レベルに至るまで多階層的に暑熱ストレスを可視化し、根本的な熱中症対策の実用化を目指すことを目的とする。

    暑熱ストレスの可視化研究と熱中症サポート法の開発

    高齢者ヘルスサポートシステムの開発
    東洋大学では、「東洋大学ビジョン Beyond 2020」を提唱し、日本や世界が抱える課題を創造的に解決する事を宣言している。特に、少子高齢化社会を迎える我が国では、国民の健康の維持・増進、予防医学的な見地に立ったスポーツの理解と振興は危急の課題である。スポーツは、体力の増進や維持に加え、ストレスマネージメントなどの効果を持つ。身体的な意味での健康増進に加え、精神的にも健康な生活を送るための重要な活動である。そこで、これまで培ってきたアスリートサポート技術の研究を基に、一般国民、特に高齢者の体力レベルや嗜好に沿った正しいスポーツの知識とトレーニング方法および、医学的・生理学的・栄養学的なサポートに加えて、心理・精神的サポートを総合的に構築したヘルスサポート法の確立を目指す。

    期待される研究成果

    科学的根拠に基づいたアスリートサポート技術の多階層的研究

    東洋大学はこれまでに、箱根駅伝、オリンピック競技大会を始めとして、多くのアスリートを輩出している。アスリートのパフォーマンスを100%発揮するために、運動生理学・神経生理学および循環生理学の多階層的なサポートを目標に、トレーニング過程において負荷のかかる様々なストレス(フィジカル・メンタルストレス)を客観的に可視化し、それを解消するコーピング法の確立を目指す。さらにIoTを用いたセルフコンディショニングシステムの構築を目指し、収集したデータをAIにより競技力向上指標として選手にフィードバックする。

    本研究テーマの成果をアスリート個々に適応できれば、更なるパフォーマンスの向上を見込むことができ、オリンピック東京大会に限らず、様々な国内外の大会に持続的にアスリートを輩出することで、本学のブランド力を高めることが期待できる。

    また、人間工学・運動生理学・流体力学・バイオミメティクス(生物模倣)による大学の「知」と、産業界の「技術」を融合させた産官学連携プロジェクトとして、初の競技用国産カヌーも制作プロジェクトを開始します。

    科学的根拠に基づいたアスリートサポート技術の多階層的研究

    科学的根拠に基づいたアスリートサポート技術の多階層的研究

    暑熱ストレスの可視化研究と熱中症サポート法の開発

    我が国では、熱中症による死亡者数が昨年は約1000人、救急搬送者は5万人超、潜在的な熱中症発症者は高齢者を中心に約100万人に達しており、非常に大きな社会問題となっている。2020年オリンピック東京大会は7月後半の猛暑と多湿の季節に開催されることから、世界各国から訪れる競技選手・競技関係者および観戦者の熱中症発症者数が、激増することが予想されている。東洋大学ではこの急務の社会問題に対しても熱中症対策研究チームを昨年度から設立し、多階層的に熱中症を解析し、そのコーピング法の開発研究を行っている。

    具体的には、暑熱ストレスが生体に与える影響を、遺伝子・細胞・動物レベル、そしてヒト個体レベルで可視化し、熱中症の発症メカニズムを根本的に解明する。さらに、熱中症発症前に特徴的に現れる生体バイオマーカーや生体信号を非侵襲的に測定できるウェアラブル装置の開発、熱中症対策(予防)効果が期待できる機能性成分を含む飲料や食品および衣服の開発を、食品・製薬・繊維企業と共同で実施する。これらの研究成果が実用化され、熱中症の発症者数が半減すると、2020年オリンピック東京大会のみならず、グローバルな社会問題(環境、健康、産業)に対しても持続的に寄与することができる。

    暑熱ストレスコーピングのシームレスな多階層的研究

    高齢者ヘルスサポートシステムの開発
    アスリートおよび熱中症を対象に開発したサポート技術は、一般国民への健康サポート技術への展開も容易であり、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会以降も引き続き、日本が抱える超高齢社会を支える一助となる。現在我が国では、65歳以上の高齢者が約3400万人に達し、うち要介護者数は600万人を超えている。さらに、ストレスに対する脆弱性が亢進している「フレイル」と呼ばれる要介護予備群の高齢者が増加している。このような要介護予備軍に対して、運動習慣、栄養および心理社会的な適切なサポートの提供により、心身の状態を改善し、要介護に至るのを防ぐことができると日本老年医学会では提唱している。そこで本研究では、要介護予備軍の高齢者に対して、身体的および精神的サポートを計画している。身体的サポートでは、前述したアスリートサポート技術の研究を基に、高齢者の体力レベルや嗜好に沿った正しいスポーツの知識とトレーニング方法に、医学的・生理学的側面を取り入れた、総合的なサポート技術を構築する。特に高齢者の筋力低下は、ロコモティブ症候群や筋肉減弱症を引き起こすことから、早期の介入プログラムを導入することにより、健康寿命の延伸が期待できる。さらに前述の熱中症対策を応用することで、熱中症による死亡者数の5割を占める高齢者の重症化を防ぐことが可能となる。このように本研究テーマの成果は、高齢者ヘルスサポートの社会実装化が可能となり、今後予想される要介護高齢者の増加を防ぐ一助となることから、社会的かつ経済的意義は大きく、全国的および国際的にも重要な研究として位置づけられる。

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