Academics & Global 理事長メッセージ

分断を乗り越えて

世界の政治的・経済的な枠組みは大きく崩れてしまった。我々は二度の世界大戦と東西冷戦を経て、自由主義、民主主義、人権尊重、法治主義を柱に掲げ、世界の国々がそれぞれにヒト、モノ、カネの自由な移動を認め、協調して経済発展を続けるはずであった。それが今、大きな試練に直面してしまった。

中東、アフリカでは地域紛争、難民増加が続き、世界各地で自然環境は破壊され、異常気象が頻発している。先進諸国でさえ、所得格差や移民問題で国内の分断が目立ってきた。そこに新型コロナウイルスの世界的蔓延が起こり、我々は普段の生活を奪われ、経済停滞に陥ってしまった。何よりも世界を震撼させたのはロシアによるウクライナ侵攻である。その兆候は2014年のロシア・ソチでの冬季オリンピック直後にあった。ウクライナで親露派の大統領が追放されロシアに亡命してしまったのに乗じて、ロシアは突如ウクライナのクリミアに侵攻し占領してしまった。しかしこの暴挙に対し、戦争を回避したい米国のオバマ大統領を始め、ロシアに親近感を持っていたドイツのメルケル首相や日本の安倍首相も反対の意思表示を明確に行動で起こそうとはしなかった。その後ロシアはOPECと共に石油、ガスの高値売却を目論み、外貨準備を世界第三位の水準まで蓄積していた。2014年にクリミア併合を強行し実現した自信が今回のウクライナ侵攻へとつながる「強いロシア」への一環であったのである。だからロシアは脱炭素の世界の動きには全く加わらずにきた。そもそも「脱炭素」と「戦争」とは真逆の方向である。大量の破壊兵器や爆撃機は化石燃料を使い、しかも破壊後の復興には巨大なエネルギーを必要とする。

さらに新型コロナウイルスの世界的蔓延と米中間の極東地域をめぐる緊張はグローバルなサプライチェーンを分断した。またロシアのウクライナ侵攻と世界的な気候変動の猛威は世界の食料供給やエネルギー需給に深刻な影響と大混乱をもたらした。これらは世界的にインフレを加速し、わが国を除いた世界各国が金利引き上げで対応している。このまま推移すると来春ごろには世界的な経済悪化が顕著になるものと見込まれる。

さてその先に我々を待っているのは、如何にして分断された世界を修復し各国が協調して、真剣に地球温暖化対応とグローバリゼーションの回復に取り組むかである。この難題を克服して新しい歴史の始まりとしたい。若い学生の皆さん!一緒に考えましょう。

2022年10月

学校法人東洋大学 理事長  安斎 隆

学校法人東洋大学
理事長 安斎 隆